2014年01月23日

TDS計とコーヒー

分析機関にお勤めとか、大学で化学分野を専攻していたとかじゃない限り、TDSと言えば東京ディズニーシーである(TDSでgoogle検索するとパスポートのいらない夢の国ばかり検索結果に並ぶことになる)。

ところが「今、コーヒー業界でTDSがアツい!」となると、ちょっと様子が違ってくる。
エスプレッソマシンで使用するポルタフィルタのバスケットや、グループのスクリーンでお馴染みのVSTが販売しているTDS計が、アツいのである。
VSTのストアで買うとUSドルで799だそうだ。けっこう高い。高いけど、みんな買ってる。
この流れに乗るしかない、というわけで僕も買ってみた。

s写真 (8).jpg

VST社のものではないのだけど、一応、TDS計。ちょっと計ってみたら、ちゃんと使えるっぽい。

今回は、TDSとコーヒーの関係とは、TDS計をどうやってコーヒーに役立てていくか、そういうところを考えてみたい。

さて、TDSとは何かというところから説明していかなければならない。
まるっとコピペするとわかりにくくなるので、すごーく簡単に言うとこうなる(と思う)。
TDSとは総溶解固形分のことで、水溶液の中に溶けてる「何か」の量のことである。

で、それをどうやって計るかというと、おおまかに言って二通りの方法がある。

ひとつは、VST社で販売しているヤツの採用している方式で、水を通して見ると物が折れ曲がって見えるという原理を利用したもの。
水の中で見えるものの長さがいつもと違って見えたり、水に入った部分が折れ曲がって見えたりした経験を(特にお風呂の中で)お持ちではないだろうか。空気中と水中では、光の進み方が違うので、そう見えるのであるが、屈折計はこの光の進み方の違いを測定しているわけである。真水の曲り方を基準として、測りたい水溶液を通った光がどれだけ曲がっているかで、その水溶液にはどのくらい混じり物があるかを推測するのである。
通常、スクロース(つまり砂糖)がどれだけ溶けてるかというのを計ることが多いが、有機物が溶けてればなんとなく屈折率が違ってくるので、それがスクロースでなくとも「何かが溶けてる度合」を計ることができる。
原理的に、濁ったものや不透明なものの測定が苦手である。

もうひとつは、僕が買ったヤツの採用している方式で、水に何かが混じってると電気の通りが良くなるという原理を利用したもの。
真水はあんまり電気を通さないけれども、たとえば塩を溶かすと電気の通りが良くなる。塩の濃度が濃ければうんと良くなる。その仕組みを利用して、水溶液中に電極を二本入れてその間の電気の通り具合を測ることで、どのくらい混じり物があるかを推測するのである。
屈折計が砂糖ならこちらは塩で説明すると、塩はNaClだけどこれが溶けた水溶液に電流を流すと、NaプラスイオンとClマイナスイオンになって、2枚の金属板の間を移動していくのである。塩分が濃ければ電気の担ぎ手であるイオンの量も増えるので、電気が流れやすくなるわけ。ああ難しい。

どちらも一長一短があるわけだけど、溶けてるものの量を計るという目的で使用される、一般的な計測器具である。

では、これを使うことで何がわかるか、を考えてみる。

s写真 (8).jpg

これ、SCAAが学者の先生と共同で研究したコーヒーの濃度と美味しさ(?)の関係をあらわしたグラフなんだけど、どんくらいの濃度だとどんな味になります、ということがわかるようになっている。
これだと、濃度(パーセント)表示なので、brix値が出るほうがわかりやすい。というわけで、VSTのTDS計は屈折式なのかなと思ったりする(要審議)。
なんとなく、確かにそんな感じになるよなーと思わせるだけの説得力のあるグラフである。

でもなんか釈然としない感じも残る。学者の先生が研究室で高級な計測機器を使って(たとえばLC-MASとか使えば、より正確に成分と濃度(定性と定量)ができるはず)調べたりしてるんだろうなあと思うと、簡易型のものでどれほどのことがわかるかというのが、疑問なのである。

僕は学者じゃないし、読者も学者じゃないので、ものすごーくざっくり説明すると、屈折計は砂糖の濃度を、導電率計は塩の濃度を測るのが得意なんだけど、コーヒーの成分がどっちよりなのかわからない。
TDS(総溶解固形分)が測れると言うけれども、屈折計にしろ導電率計にしろ温度が違えばその結果が変わってくるし、そもそも検量線(基準になる連続した値のこと。あらかじめ成分と濃度がわかっている水溶液をいくつか測って、実際に測った値を線にしておくことで、何かを測ったときにどのくらいの濃度なのかがわかるようにする)を引かないと正確な測定とは言えないだろう。
何を測定しているのかわからないで測定しているわけだから、ただ「濃いか薄いか」しか測れないと言って差し支えないと思う。(定量はできるけど、定性ができてない)

という前提条件で、さてコーヒーを測定することで何がわかるかなー?と考えてみた。

抽出の場合は、パラメーターが「湯温」「粉量:抽出量」「時間」の三つになるので、これらのパラメーターを動かしたときに濃度がどうなるかということを測定すると面白いだろう。

焙煎については、焙煎プロファイルを変えて同じL値(黒→白を0→100として、コーヒーの表面の色がどのくらいかで焙煎度合に当てはめる。たとえばシティローストだと20くらい)にして、抽出条件をそろえた抽出液にして濃度を測るとか。焙煎プロアファイルを同じにしてL値を変えて、抽出条件をそろえた抽出液にしてとか。
焙煎そのもののパラメーターはたくさんあるけれども、濃度を測定するパラメーターとしては、プロファイルとL値のふたつかな。


業務上、コーヒーを扱うならば、どの段階(生豆、焙煎、抽出)に携わるとしても、あって損はない計測機器であると思う。使いようではその計測結果がかなり有益な指標になり得るはずだ。
しかし、大事なのは、屈折計は「真水と比べてどのくらい屈折率が違うか」、導電率計では「真水と比べてどのくらい電気の通りがいいか」を計測しているだけで、濃度を調べているわけではないということである。もちろん、近似値として利用できる程度には密接な近似があるということなのだが、それでも、濃度そのものを調べているわけではないというのは頭の隅に置いておいたほうがいいだろう。
それと、近似値としての濃度が測れるにしても、何の濃度を計っているのかがわからないこともついでに覚えておこう。コーヒーの濃度を計っていると言っても、コーヒーはたくさんの成分を持っている。その計測方法で測れる成分はその中の一部でしかない(とは言ってもそれは数えきれないほどたくさんの成分だ)わけで、その計測結果はそのコーヒーの濃度についてすべての情報を持っているわけではないってこと。
それと、もうひとつ大事なのは、単純に美味しさを現す指標ではないということだ。おそらく、美味しさと何らかの、そしてどれほどかの相関があることはあるのだろうと推測されるが、その関係をきちんと表すにはちょっとハードルが高そうだ。前掲SCAAの図にしても、真ん中は「バランスがいい」ってことで「美味しい」とは言ってない。

さてさて、皆さんはどうTDS計を使うだろうか。
この記事を読んで、もし、もっといい使い方があるよということであれば是非ご教授いただけるととてもうれしい。なにしろ、僕も大枚はたいて買ってしまったのだから、なんとか役に立てないと勿体ないからね。


※学術的な記述について誤りがあればご指摘くださいますと幸いです
posted by ホゼ at 09:25 | Comment(0) | TrackBack(0) | エスプレッソ技術 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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